第5章「智と才の性質論」の要点は、正しい食物を摂り、病気をしない健康な、智恵あり才気の備わった身体と精神の人間に成長せよだ。そのためには、幼い頃は穀物と野菜の正食を摂り智恵を伸ばし、成人し社会に出るようになってからは、肉や魚などの雑食を増やし才気を発展させれば良い。
才気とは、動物性のナトロン塩が働く性質で、決断力に優れていて、物事を処理するのが早いがミスも多い。一方で智恵というのは、植物性のカリ塩が働く性質で、一つ一つの動作は遅いが、着実で誤りが少ない。つまり才気(才能)の多い人間になるのも、智恵の多い人間になるのも、食次第である。
昔に比べると、今は機転が利き、即断即決のできる才気の多い人間が重宝される。しかし、大事業を完遂するするには思慮深く継続力がなくてはならない。物事にあたるには智恵も才気も兼ね備える必要がある。
最後に文中にあった釈迦の大智言を紹介する。
「人の心魂を清浄にするためには、身体を清浄にする、その身体を清浄にするには、血液を清浄にする、その血液を清浄にするには、すなわち、その食物を清浄にすべきである。」
以上で石塚左玄の食べもの健康法の紹介は終わりである。
この本は、明治31年(1898年)に左玄によって書かれた通俗食物養生法の現代語訳である。今から126年も前に発表された内容だ。私がこの本の感想を詳しく述べたのは、今では忘れ去られた昔の偉人の考えを現代人にも知ってもらいたいという動機からだ。私は一行一行を吟味して読み、時には左玄が最重要視した玄米を頂きながら文中の言葉を頭の中で唱え、左玄のメッセージ(玄米)を咀嚼(理解)しようとした。
本分の要点は以下のようにまとめられる。「食を正せば心身が健康になる。正しい食と言うのは、人間の歯の形状に適した玄米食にある。食が乱れれば健康を損なう。食の乱れとは土地柄、季節柄を無視した食のことであり、ナトロン塩とカリ塩のバランスの不均衡である。」左玄が120年以上も前に世間に伝えたこの英知は、病気が多い現代に救いの手を与えるものではないかと私は考えている。もちろん玄米食をしたら全ての病気が治るというような話ではない。しかし、左玄の言う通り、食を正せば私達は大いに食物の影響を受け、食物によって生かされていることに次第に気が付くついていくであろう。つまりは、食物を産み出す自然が私達の生みの親であり、育ての母であることがわかり、自然に対して意識を向けるようになる。自然な食物を感謝の気持ちを抱きながら頂くことで私達は自然な状態つまり健康な状態に変化していくのではないか。西洋の科学の文明が入り、科学を崇めるようになった明治時代に、日本人をもう一度自然の方向に目を向けさせようとした左玄のメッセージが現代の人にも届いたら嬉しく思う。興味が湧いたら、是非この本を読んでみてほしい。
これまで、複数回にわたって私の稚拙な文を読んでもらい、心より感謝の気持ちを申し上げたい。
出典:食べもの健康法(農山漁村文化協会出版、丸山博解題、橋本政憲訳)
9月16日 大箸








コメントを残す