1712年に福岡県出身の儒学者である貝原益軒よって書かれた「養生訓」は江戸時代の大ベストセラーとなった。この本は、益軒が83歳の時に書かれたもので、健康法と暮らし方についての彼の考えが書かれている。
彼の主張の第一は、生命は父母そして天からの恵みもので自分のものではない。よって身体を粗末に扱い寿命を短くしてしまっては、親や天にとっての不孝ものである。よく養生して身体を健康に保ち、天命を全うするべきだということだ。
養生の要は、食欲、性欲、睡眠欲を抑え、怒り、憂い、思い、悲しみ、恐れ、喜びの感情を抑え、心を穏やかにして過ごすことである。そして、風、寒さ、暑さ、湿度から身体を守ることによって、健康を保つことができる。
健康を保つことができれば長寿になり、若い時は血気盛んで言動に誤りが多いが、年を経るに従って、悪い癖が改善でき、これまで知らなかったことがわかってきて人生を楽しむことができる。だから欲を抑えることなく、慎みない生活をして寿命を短くしてしまっては、長寿だからこそ得られる益を得ることができない。
欲を抑えるには忍耐を用いるべきだ。特に飲食と性欲に関しては心を強くして欲に負けないようにしなければならない。外敵である風、寒さ、暑さ、湿度に関しては、油断することなく自分の身を早めにそれらから守らなければならない。
その他に益軒の教えは、自分の性質にあった労働をし身体を酷使してはならない。無駄口を叩かず、心静かに保つように努めるべき。家事を行い身体を適度に動かすなど暮らしや生き方に関連したものも数多くある。
益軒の教えに沿った生き方をしたら、きっと目立たずひっそりとした静かな暮らしになっていくだろう。現代では受け入れ難い教えかもしれないが、身も心も慌ただしい現代にとっては必要な考えであると思う。美味しいものを求めるのではなく、飢えや渇きを抑える程度に飲食する。享楽を求めるのではなく、心の平静を求める。メディアの視聴や人との交流で多くを聞いたり、見たり、話したりするのではなく、それらから離れてみる。そうすることで心は穏やかになり、深い学びのある暮らしになっていくのではないか。
養生訓は貝原益軒という偉人だからこそ発見できた生き方の指南書である。多くの人に益軒の考えに触れてほしいと願っている。今回は大まかな紹介になってしまったが、また読み直したら改めて紹介したい。
出典
出版:岩波書店
著者:貝原益軒
校訂:石川謙
7月11日 大箸








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